ピッチタイムとは
ピッチタイムとは、ライン上を製品が1個流れる時間間隔のことです。コンベアラインであれば、ある地点を製品が通過してから次の製品が通過するまでの間隔がピッチタイムであり、ラインが実際に刻んでいる生産のリズムを表します。コンベアの送り速度の設定や、各工程に割り付ける作業量の上限を決める基準として、ライン管理の実務で使われる用語です。
「1個あたり何秒で流すか」という意味で、後述するタクトタイムとほぼ同じ値に設定されることが多く、現場によっては同義に使われることもあります。ただし、タクトタイムが「需要から計算される目標のペース」であるのに対し、ピッチタイムは「ラインを実際に流す運用上の間隔」という文脈で使われる点に違いがあります。
タクトタイム・サイクルタイムとの違いと使い分け
3つの用語は、「どこから決まる時間か」で区別すると整理しやすくなります。
| 用語 | 何から決まるか | 意味 | 主な使いどころ |
|---|---|---|---|
| タクトタイム | 顧客の需要 | 必要生産数を満たすために「1個を何秒で作るべきか」という目標ペース | 生産計画、必要人員・工程数の算定 |
| サイクルタイム | 工程の実力 | 実際に「1個を何秒で作れているか」という実績のペース | 工程能力の把握、ネック工程の特定 |
| ピッチタイム | ラインの運用設定 | ライン上を「製品が1個流れる時間間隔」 | コンベア速度の設定、ライン編成の基準 |
3つの関係はこう考えると分かりやすくなります。まず需要からタクトタイム(作るべきペース)が決まり、それに合わせてコンベアラインのピッチタイム(流す間隔)を設定します。そして各工程のサイクルタイム(作れているペース)がピッチタイム以内に収まっていれば、ラインは設定した間隔どおりに流れ続けられます。サイクルタイムがピッチタイムを超える工程が1つでもあると、その工程がネックとなって流れが乱れます。タクトタイムとサイクルタイムの詳しい計算方法と関係はタクトタイムとサイクルタイムの違いの解説記事を参照してください。
ポイント: 用語の使い分け以上に重要なのは、社内の会話で「どの時間の話をしているか」が揃っていることです。ラインの管理帳票や標準作業の文書に、タクトタイム・ピッチタイム・サイクルタイムのどれを記載しているのかを明記しておくと、認識ずれによる誤った判断を防げます。
ピッチタイムの計算方法と数値例
基本の計算式
ピッチタイムは、タクトタイムと同じ形の式で求めます。
ピッチタイム = 1日の稼働時間 ÷ 1日の必要生産数
例えば、1日の稼働時間が460分(8時間勤務から休憩等を除いた実稼働)、1日の必要生産数が460個であれば、ピッチタイムは460分÷460個=1分、つまり60秒に1個の間隔で製品を流す設定になります。
コンベア速度への換算
コンベアラインでは、ピッチタイムをコンベアの送り速度に換算して運用します。製品を載せる間隔(ピッチマークの間隔)を使って次のように計算します。
コンベア速度 = ピッチマーク間隔 ÷ ピッチタイム
例えば、製品を1.2m間隔で載せるラインでピッチタイムが60秒(1分)なら、コンベア速度は1.2m÷1分=毎分1.2mです。需要が変わってピッチタイムを見直す場合は、この式で速度を再設定します。
ポイント: 需要の増減に対してコンベア速度だけを変えると、各工程の作業がピッチタイムに収まらなくなることがあります。速度変更は、後述するライン編成(工程への作業の割り付け)の見直しとセットで行うのが原則です。
ライン編成・コンベア速度設定への活かし方
ピッチタイムは、ライン全体の設計と日々の管理の両方で基準になります。
- 工程分割の基準にする: ライン編成では、各工程の作業時間(サイクルタイム)がピッチタイム以内に収まるように作業を分割・割り付けます。各工程の時間の根拠には、レイティングと余裕率で補正した標準時間を使います
- 工程間のバランスを評価する: 工程ごとの作業時間のばらつきが大きいと、速い工程に手待ちが生まれます。ばらつきの度合いはライン編成効率・バランスロス率で定量評価し、作業の再配分で平準化します
- 異常検知の物差しにする: 「60秒に1個」という基準があることで、流れの遅れ=異常がその場で見えるようになります。ピッチタイムは、遅れを終業時にまとめて知るのではなく、発生した瞬間に把握するための管理の基準でもあります
- 需要変動時の再設計に使う: 必要生産数が変わったら、ピッチタイムを計算し直し、コンベア速度と工程編成を合わせて見直します。ピッチタイムを据え置いたまま残業や在庫で吸収し続けると、需要とラインのリズムが乖離していきます
ライン編成の土台になる標準作業を、動画から整備する
ピッチタイムに合わせたライン編成は、各工程の作業内容と時間が標準として文書化されていて初めて検討できます。AI Manual Coachは、作業動画をアップロードするだけでAIが工程を解析し、テキスト・画像付きの作業手順書を自動生成する製造業向けのシステムで、ライン編成の土台づくりを次のように支援します。
- 動画アップロード〜AI解析: 各工程の作業動画から工程を解析して整理するため、作業の再配分を検討する際に、現状の作業内容を動画で何度でも確認できる
- 標準作業組合せ票(TPS準拠): トヨタ生産方式に準拠した標準作業組合せ票のフォーマットでExcel出力でき、ピッチタイムと各工程の作業時間の関係を帳票として整備しやすくなる
- マニュアル自動生成: ライン編成の変更で作業の割り付けが変わったとき、変更後の作業動画から手順書を再生成できるため、標準の更新が編成変更に追いつきやすくなる
まとめ
ピッチタイムとは、ライン上を製品が1個流れる時間間隔で、需要から決まるタクトタイム、工程の実力を表すサイクルタイムと区別して使われます。計算は「稼働時間÷必要生産数」が基本で、コンベアラインではピッチマーク間隔とあわせて送り速度に換算して運用します。各工程のサイクルタイムがピッチタイム以内に収まるよう作業を割り付け、ばらつきはライン編成効率で評価して平準化する——この基準としての役割こそがピッチタイムの本質です。需要が変わったらピッチタイムから見直し、ラインのリズムと編成、そして標準作業の文書を一体で更新していきましょう。