時間観測とは
時間観測とは、作業を要素作業に分解し、それぞれの所要時間をストップウォッチ等で実測するIE(インダストリアル・エンジニアリング)の手法です。「タイムスタディ」「ストップウォッチ法」とも呼ばれます。目的は大きく2つあり、1つは標準時間(その作業に必要とされる時間)を設定するための基礎データを取ること、もう1つは作業のばらつきやムダを発見し、改善の対象を特定することです。
時間観測が瞬間観測の積み重ねで構成比を推定するワークサンプリング法と違うのは、個々の要素作業の所要時間そのものを実測値として得られる点です。その分、観測者が作業に張り付く必要があり、事前準備の質が結果を左右します。
観測の準備
作業を要素作業に分割する
観測の前に、対象作業を「部品を取る」「ねじを締める」「治具にセットする」といった要素作業に分割します。分割のポイントは、開始点と終了点が目で見てはっきり分かること(「手が部品に触れた瞬間」「ねじ締めの音が止まった瞬間」など)、そしてストップウォッチで測定できる長さがあることです。区切りが曖昧なまま観測を始めると、測るたびに計測点がずれ、データがばらつきの原因を語らなくなります。
観測用紙を準備する
要素作業を行の順に並べ、観測サイクルごとの時間を記入する観測用紙を用意します。要素作業名と計測点(どこからどこまでか)、観測日時・対象者・使用設備などの観測条件を記録する欄も設けます。異常があったサイクルにメモを残せる備考欄を作っておくと、後の整理段階で異常値の原因をたどれます。
ストップウォッチ法の手順5ステップ
ステップ1: 観測の目的を作業者に説明する
観測は作業者の協力なしには成立しません。人事評価や監視ではなく、標準時間の設定や作業改善のための実態把握であることを事前に説明し、普段どおりのペースで作業してもらいます。観測されていると意識するとペースが変わりやすいため、観測位置も作業の邪魔にならず、かつ手元の計測点が見える場所を選びます。
ステップ2: 計測方式を決める(継続法・反復法)
ストップウォッチの使い方には、時計を止めずに各要素作業の終了時刻を読み取り続け、後で引き算して個々の時間を求める継続法と、要素作業が終わるたびに時計をゼロに戻す反復法(スナップバック法)があります。継続法は読み取りの負担が大きい代わりに時間の取りこぼしがなく、反復法は個々の時間を直接読める代わりにリセットの瞬間に誤差が乗ります。要素作業が短い場合は継続法が確実です。
ステップ3: サイクルを繰り返し観測する
決めた計測点にしたがって、作業サイクルを繰り返し観測します。観測中は時間だけでなく、「部品を取り損ねた」「治具の位置を直した」といった通常と異なる出来事も備考欄に記録します。この記録が、後で異常値を除外してよいかどうかの判断材料になります。
ステップ4: 異常値を確認し、データを整理する
観測を終えたら要素作業ごとに時間を集計し、他のサイクルから大きく外れた値がないかを確認します。異常値の扱いは後述のとおり、原因が特定できるかどうかで判断します。
ステップ5: レイティングで補正し、正味時間を求める
観測値は「その日その人のペース」の時間であり、そのままでは標準時間にできません。観測した作業ペースが標準ペースと比べて速いか遅いかを評価し、レイティング係数で補正して正味時間を求めます。標準時間にするには、さらに余裕時間を上乗せします。
観測回数の目安と異常値の扱い
観測回数の目安
観測回数は、作業時間のばらつきの大きさと求める精度によって決まりますが、実務では1つの作業につき10サイクル程度を目安に観測を始め、ばらつきが大きい要素作業については回数を増やすのが一般的です。サイクルタイムが短い作業ほど1回あたりの読み取り誤差の影響が相対的に大きくなるため、多めの観測が必要になります。少数の観測で平均を取っただけの数字を標準時間の根拠にしないことが重要です。
異常値の扱い
他のサイクルから大きく外れた値は、機械的に捨てるのではなく、まず備考欄の記録から原因を確認します。部品の落下や突発的な中断など、通常の作業に含まれない原因が特定できる場合は集計から除外します(ただし記録自体は残し、除外した理由を明記します)。一方、原因がはっきりしないばらつきは作業方法が安定していないサインであり、除外するのではなく、ばらつきの真因を調べる改善の入口として扱います。
ポイント: 異常値が「なぜ出たのか」は、時間データだけを眺めても分かりません。観測時のメモ、そして後述する動画の記録があると、外れたサイクルで実際に何が起きていたかを事実で確認できます。
動画を使った時間観測の利点
近年は、作業を動画で撮影してから時間を読み取る方法が広く使われるようになっています。ストップウォッチによるその場での観測と比べ、次の利点があります。
- 繰り返し確認できる: 計測点の見落としや読み取りミスがあっても、巻き戻して何度でも確認できる。スロー再生を使えば短い要素作業も正確に区切れる
- 観測者の負担が小さい: 現場ではカメラを回すだけでよく、観測用紙とストップウォッチを同時に操作する熟練が要らない
- 時間以外の情報が残る: 異常値が出たサイクルで何が起きていたか、作業のやり方がどう違ったかを、映像の事実で確認できる
- そのまま標準化・教育に使える: 観測に使った動画を、手順書づくりや新人教育の教材として二次利用できる
手順書化や分析に使える動画を撮るには、カメラの位置や画角にいくつかコツがあります。詳しくは作業動画の撮り方を参照してください。
観測に使った動画を、手順書と帳票づくりまで活かす
時間観測のために撮った作業動画は、測って終わりにするにはもったいない資産です。AI Manual Coachは、作業動画をアップロードするだけでAIが工程を解析し、作業手順書を自動生成する製造業向けのシステムで、観測後の標準化を次のように支援します。
- マニュアル自動生成: 観測に使った作業動画から、テキスト・画像付きの作業手順書をAIが自動生成。観測と手順書整備を1回の撮影でまかなえる
- 標準作業組合せ票(TPS準拠): トヨタ生産方式に準拠した標準作業組合せ票のフォーマットでExcel出力でき、時間観測の結果を標準作業の設計に落とし込める
- 熟練者・新人比較分析: 作業者間で観測時間に差が出たとき、熟練者と新人の動画を比較して、時間差の背景にあるやり方の違いを言語化した分析レポートを生成できる
まとめ
時間観測は、標準時間の設定と改善の基礎データを支えるIEの基本手法です。成否を分けるのは観測の腕前よりも準備の質で、開始点・終了点が明確な要素作業への分割と、観測条件・異常の記録がそろって初めて、使えるデータになります。観測回数は10サイクル程度を起点にばらつきに応じて増やし、異常値は原因を確認してから扱いを決め、観測値はレイティングで補正する——この流れを押さえてください。動画を使った観測なら、読み取りの正確さと記録性が上がるうえ、撮った動画を手順書づくりや教育にもそのまま活かせます。